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勘違い?

 
 

「へっへーん!百目鬼のくせに!!」
「わー四月一日くん、酔うの早ーい」

・・・・ある日の、侑子の家。
そこには、顔を赤くしてまくしたてる四月一日と、それをおもしろそうに眺めるファイと侑子の姿、そして困ったように首を傾げる少年少女の姿があった。
黒鋼が、諦めにも似たため息を漏らす。
「ったく。未成年者に酒飲ませるなんて、おまえらそれでも教師か」
「えーだってー、おもしろいでしょー?」
あっけらかんと笑ってみせるファイに、黒鋼はふんと鼻を鳴らし、手に持っていた日本酒をあおった。




何故、このような事態を招いたのか。
・・・・・話は、つい2時間前に先のぼる。
いつものように買い物から帰って来た四月一日は、道端である光景を目にしてしまった。

「どうして!いつも、小狼は・・・・・っ」
「さくらだってそうだろ」
小狼とさくらが、言い争いをしている場面だった。

―――――嘘だろ?!

数秒間の間、ぽかんと2人を見比べてしまったほどである。
ハタと思いだして急いで物陰に隠れても、2人は四月一日の事など気にも留めていないようにまだ何か言い募っていた。

学校でも公認のカップルである2小狼とさくらは、四月一日から見ても、いや、誰から見ても仲が良かった。
いつもさくらは手作り弁当を作ってくるし、小狼もそれを嬉しそうに食べていた。
いつもさくらの側には小狼がいて、小狼の側にはさくらがいた。

なのに、なのに・・・・・・
一体どうして?

四月一日は、まだ完全に動き始めていない頭を一生懸命動かして、思考を巡らせた。
「あ・・・・・・・・」
思い当たる節が、あった!



今日の放課後―――――。

「四月一日君・・・・」
四月一日が帰りの支度をしていた時、ひまわりがやってきた。
「あ、ひまわりちゃん。ど・・・・・」
どうしたの?
そう聞こうとした時、四月一日はひまわりの表情の暗さに気付いた。
「・・・・・何か、あったんだね」
「そうなの。実はね、・・・・・・」

最近、小狼とさくらがいつも口喧嘩ばっかりしている。
二人とも休み時間は教室にいないし、何かあったのではないか。
ひまわりはそう言うのだった。

「ね、四月一日君、何か聞いてない?」
ひまわりは、四月一日の顔を覗き込んだ。
でも、四月一日にも全く見当がつかない。
「んー・・・・。
たしかに、最近二人とも見かけないなぁとは思ってたけど・・・・・特に何かあったとかは聞いてないな」
「そうなんだ・・・・・・」
ひまわりは、困ったように首をかしげた。
「なんかね、本当に仲が悪そうなの。
見てても、辛くて・・・・・・」
「ひまわりちゃん・・・・・・」
沈んだ顔でそう訴えるひまわり。
四月一日は、そんなひまわりを元気づけるようにほほえんだ。
「大丈夫だよ、あの二人なら。
すぐに仲直りするって」



そうだ。
そうだった!!!
小狼とさくらの親友として、いつも二人の仲を案じてきたはずだったのに。
俺としたことが、全然気付かなかった・・・・・!
四月一日は、自分の鈍感さを呪った。

実を言うと、それから侑子の店に行って、なんだかんだ用事を言いつけられてしまったら、二人の事はすっかり頭の中から消えていたのだが。
今は、そんな言い訳を言っているヒマはない。

四月一日は、壁に隠れながら耳をすませた。
「ひどいわ、小狼!私は貴方の事を、いつも一番に考えているのに・・・!
貴方はそうじゃないのね?」
「俺だって、君以外に思いを寄せる相手などいない」
「なら、どうしてあの薄汚い女と一緒にいたの!?」

う・・・・・・・。
こ、これはかなり深刻な内容だな・・・・・・・。

四月一日は、今更ながら深くため息をついた。
っていうか、『あの薄汚い女』とか・・・・・・。
少なくとも、さくらが口にするような言葉ではない。
これは、相当ヤバい感じなんだな・・・・、と四月一日は頭を抱えた。

「もういい!知らないっ」
そして。
さくらが、瞳を潤ませて踵を返した。
「あ・・・・・」
引き留めようと伸びた小狼の手から、すり抜けていく。


呆然と立ち尽くす小狼に、四月一日は思わず駆け寄った。
「小狼くんっ・・・!」
「あ、四月一日くん」
振り返った小狼の表情は、思いがけず冷静というか・・・・・普通だった。
ほんの少し気にかかったが、気のせいだと思い直した。

―――――聞いていい事じゃないってわかってるけど・・・・・・。

四月一日は、思い切って小狼に訊ねた。
「小狼くん、さくらちゃんとの事・・・」
「ああ・・・・・」
小狼は、四月一日の表情を見ると、目を伏せた。
「・・・・今の、見てたんだ」
「ごめんっ、盗み見するつもりはなかったんだけど・・・・!」
慌てて弁解しようとする四月一日に、小狼ははにかむように苦笑いした。
「いいよ、別に。
もう終わったから」

おっ、おおおおお・・・・・・
終わった!!??

「しゃっ小狼くん!そんな早まるな!!
まだ先はあるぞ・・・・・っ」
「は?」
小狼の肩をつかみ、必死になってまくしたてる四月一日に、小狼は目を丸くした。
四月一日は、すでに小狼の表情を気にも留めなかった。
黙って何も言わない小狼に、四月一日はやっと顔をあげた。
すると小狼は、やっぱり何でもないように笑うと、ひらっと手を振った。
「ありがとう、四月一日くん。
俺、もうちょっと頑張ってみるよ」
その言葉に、四月一日の表情はさっきよりは明るくなる。
「ほんとだぞ!がんばるんだぞー!」
四月一日が叫ぶと、小狼は一瞬振り返ってから、家路を歩いて行った。

その姿を見送ってから、四月一日はせきを切ったように駆け出した。



「侑子さん!侑子さん!!」

店に着くなり、四月一日は大声で叫んだ。
「なぁに、四月一日。えらく焦ってるじゃない」
侑子が、のんびりと言いながら出てきた。
「小狼くんとさくらちゃんが・・・・・・・!」
「別れたのー?」
侑子は、いたって気にする様子もなく禁句を口にした。 さらりと何事でもないようにそう言われて、四月一日の顔は見る見るうちに赤くなる。
そして、今までにない形相で侑子のことを睨みつけた。

「ひどいです!そんなこと、そんなにさらって言うなんて!!!」
「え?だって・・・・・」
半分涙目の四月一日を見て一瞬怪訝そうな表情をした侑子は、今度は不敵な笑みをこぼした。
「ああ、なるほどね。そういうこと」
「どういうことですかっ!」
四月一日は、怒りに頬を染めて侑子に詰め寄った。

でも、侑子はいたって冷静に、四月一日に言い放った。
「二人の事は二人の事。貴方に首を突っ込む権利なんてないわ」
「わかってます!でも・・・・あの状況を見て、黙ってられるわけがないでしょう!!」
それでも、四月一日は必死だった。

あの二人は、そんな簡単に別れてしまうような人たちじゃない。
絶対に何か理由がある筈だ!!

そう思ったら、いてもたってもいられなかった。

侑子は、にやりと笑って見せた。
「このあたしに任せなさい。
二人がヨリを戻せるように、協力したげる」
「侑子さん!」
四月一日は、頼もしそうに侑子を見た。
―――――同時に、侑子は楽しそうに四月一日を眺めた。



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